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ピプソZUZU_PIPSO

12/12/2014 1:38 AM ·Spoilers

しぐれ

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  • 先程まで晴れていた空が嘘だったかのように泣き出す。アスファルトを穿つかの如く、疾雨が降り注ぐ。私の周りは枝垂れのような雨と、それが出す激しい、しかし静寂な雨音が粛々と支配していた。立冬も過ぎ、冬至の訪れを伝えに来る時雨。そんな時雨に誘われるかのようにして、再びこの場所に足を運んでしまう。彼女と出会った、この場所に。  私が彼女と出会ったのは、ちょうど、五年前の、同じように雨が降り頻るときだった。不意の時雨から逃げるように、息急きと雨宿りのできる公園へと向かったことを覚えている。公園に辿り着くと、簡素に造られた木造の休憩小屋に入り、濡れた髪を乱暴に振り回す。鞄を置いて座ろうとすると、先客がいたことに気づいた。雨に濡れたのであろう、烏の羽のように艶めいた黒髪に、海を落としたかのように澄んだ青い瞳。女の子らしい華奢な肢体。外見の年齢からすると、その頃の私と同じくらいだろう。

    Yeahs0
  • そこにいるはずなのに、そこにいないような、そこはかとなく遠いような、不思議な佇まいをしていた。ずっと、外の雨を見つめている。彼女は、美しかった。まるで絵画から取り出してきたかのような目の前の光景に、息を呑む。憂いを含んだ儚げな彼女の表情と雨は、この上なく調和していた。私の視線に気づいたのであろう。彼女が雨ではなく私を見て、花弁のような口を開く。 「いい雨だね」  鈴を転がしたような声が、水に溶ける砂糖のように、しっとりと私の心に溶け込んだ。数秒の間の後に、なにを言っているんだ。と言ってしまいそうになったが、そうだね。と返した。

    Yeahs0
  • 「僕はしぐれ。君は?」  しぐれ。初めて会うはずなのに、既に名前を知っていたかのような、違和感のない名前だった。私は尋ねられた名を答えると、しばらくの間沈黙の帳が降りる。屋根を打つ雨が強くなった気がした。私は沈黙を破ろうと躍起になって言葉を探すが、成す術もなく沈黙に従った。 「……君は、雨は好きかい?」  長らくの沈黙を一蹴したのはしぐれだった。外見年齢にそぐわぬ落ち着ききった声に魅了され、一瞬思考が止まる。雨が好きか嫌いかの二択なら、嫌いだ。冷たいし、濡れるし、何故か暗澹たる気分になる。 「そうか。僕は、好きだな」  どうして? 「どうしてだろうね。自分でもよくわからないんだ。しぐれっていう雨の名前があるからかな。僕と同じ名前の。でも、きっと、なにもかもを流してくれるからかもしれないね」  なにもかもを?

    Yeahs0
  • 「そう。なにもかもを。悲しいことも、嬉しいことも、寂しいことも、涙も、血も、条理も、不条理も、人の心も、命でさえ、全部流してくれる気がするんだ」  しぐれが何を言っているのか到底理解できなかった。だが、あまりにも自虐じみたその物言いが、私の心を抉った。しぐれは続けて言う。 「雨はね。別々だけど全部繋がっているんだよ。海という名の個人の世界に。それぞれの感情や痛みを須らく流して、海に還るんだ。そして、また雲として、空という名の外界の刺激へと浮き上がって、地上という名の心に降り注ぐ。それの繰り返しなんだよ」  私が黙っているからだろうか、再び続ける。

    Yeahs0
  • 「君たちだってそうさ。人はみんなバラバラだけど、地球に存在するからには自然も人間も動物も関係ない。全部繋がってるいるんだ。それが理だからね」  君たち。その言葉に、私としぐれが巨大な壁で隔絶されているかのように錯覚した。君たちの中に、しぐれはいない。まるで、世界でひとりぼっちだ。除け者だ。とでも自己主張しているかのように、しぐれはどうしようもなくひとりだ。と、そう感じた。 「なんだか、変なことを言っちゃったね。困らせてごめん」  しぐれの表情に影が差し、青い瞳がけぶる。そして、烏墨色の髪をぶらさげて頭を落とした。私が、大丈夫、泣いているの? とデリカシーの欠片もないことを尋ねる。 「ありがとう。僕は大丈夫だよ。雨は、いつか止むさ」

    Yeahs0
  •  しぐれは悲愴に言った。その小さな体に許容しきれないなにかを背負ったことを匂わせる言葉は、助けて。と言っているようにも聞こえ、また逆に、係わらないで。と言っているようにも聞こえた。彼女の心に触れれば壊れてしまいそうな危うさが、そこにはあった。その危うさが、私の心と意思を突き動かしたのだが、同時に行動に移す勇気を阻害していた。そんな歯痒い思いを抱きながら、静謐に泣くしぐれをずっと見つめ続けた。  しぐれと出会った、公園の簡素な木造の休憩小屋。毎年時雨が降ると、ここへ来て、しぐれと出会った日のことを思い出す。考えても無駄だということはわかっているはずなのに、しぐれの言葉の一字一句を理解しようと、時間も忘れて考えに耽る。我ながら呆れる。ひとしきり考えた後に決まって苦笑して、雨が止んでいることに気づく。きっと、彼女にまた会えるという希望を失いたくがないために、私は考えているのだろう。

    Yeahs0
  • そこまで自分を惹きつける、えも言われぬ魅力が彼女にはあった。この感情をなんと言っただろうか。それは雪解けのさだめを持たぬ雪のように、深々と私の心に降り積もる。これからも、そうだろう。私は――  かの時に言いそびれたる        大切の言葉は今も             胸に残れど。

    Yeahs0
  • 創作は難しいね。題材が決まっていても、難しい。時間と原稿用紙が許せば、もっと読み応えがあるものに仕上げたかったような感じがする。短期間でここまで惹き込む文章書けるの凄いね。  

    Yeahs0
  • >はるいさん ごめん、快楽の海に溺れたいってアッチ方面のことしか……。 まぁ、この文を読んで、言いたかったことが思い浮かんだのならなによりだ この物語のしぐれの元ネタは白露型駆逐艦二番艦の時雨。呉の雪風、佐世保の時雨と名高かった幸運艦。熾烈なレイテ沖海戦を抜けたが、輸送作戦中に沈没した。今も海に沈んでる。ちなみに、呉の雪風は戦後も生き残り続けて、中華民国に賠償艦として引き渡され、改名。沈んだのはつい最近だった気がする。 あかんな、艦の話するつもりなかったのにw 言えるもんは言えるときに言いたいもんだな。

    Yeahs0
  • >なつさん 時間的には3日に分けて12時から2時の間だから、制作時間は大体6時間だな。正直進めるのにかなり苦労したけど、いつも通りだった。 友人からも引き込まれる文章だったみたいな感想文もらった。もし物語に引き込まれたのなら冥利につきる。 ま、この私としぐれを使った物語はこれ以上続けられないし、続けなくないから、たぶんこれ以上読み応えあるのは書けなかったかなw 着地点的には最適だったよ。

    Yeahs0

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